「安全保障」とは何か?政治学用語解説

一般的に新聞やニュースなどで取り上げられている「安全保障」と、国際政治学の学問的な観点の「安全保障」について説明したいと思います。

また、多様化している「安全保障」概念についても触れたいと思います。

一般的に使わている「安全保障」について

安全保障は「安全を保障する」、または「安全にする」にするという意味です。

しかし、一般的に新聞やニュースで使われている安全保障の意味は、国家安全保障と同じ意味で使用されています。

国家安全保障とは、「国家が外国の脅威から領土、国民の生命、財産の安全、政治的独立を守ること」です。

ですから、「安全保障を説明してください」と言われたら、「国が自国の領土、国民の生命、財産の安全、政治的独立を外国の侵略から守ること」であると説明できます。

学問的観点での「安全保障」について

安全保障の意味は曖昧

学問的観点での安全保障の意味を、具体的に説明するのは難しく曖昧になってしまいます。

主な理由は

  1. 時代や状況により安全保障の考え方が異なり、安全保障が日々進化しているため
  2. 安全保障を定義する人の価値観が異なるため

安全保障の定義が曖昧なことについて、防衛大学校安全保障学研究会著『新訂第5版安全保障学入門』、久米郁男・川出良枝・古城佳子・田中愛治・真渕勝著『政治学』、ジョセフ・S・ナイジュニア・デイヴィット・A・ウェルチ著『国際紛争 理論と歴史』の書籍でも言及されている。

このままでは、安全保障の意味が曖昧で、安全保障について理解が進まないために、安全保障を抽象的でもいいから定義する

「ある主体が、その主体にとってかけがえのない何らかの価値を、何らかの脅威から、何らかの手段によって、守る」

引用:防衛大学校安全保障学研究会著 (2006)『最新版安全保障学入門』亜紀書房 pp3

となる。他の書籍を読んでも同じような内容で、安全保障を抽象的に定義している。

この抽象的な定義を具体的に説明するためには、「ある主体」が何なのか、「かけがいのない何らかの価値」が何なのか、「脅威」が何なのかを知る必要がある。

次の項目では、多様化する安全保障に触れ、安全保障の抽象的な定義を具体的に説明します。

多様化する安全保障について

 

伝統的安全保障

伝統的安全保障は、もっとも基本的な安全保障の概念で、「国が自国の領土、国民の生命、財産の安全、政治的独立を外国の軍事的侵略から軍事力で守ること」です。

国際政治学のリアリズム学派による考え方です。リアリズムとは、国が主体で、世界はアナーキー(無秩序)であるために、軍事力が重要であるという考え方です。

安全保障を抽象的に定義した文章に当てはめると、

「ある主体が、その主体にとってかけがえのない何らかの価値を、何らかの脅威から、何らかの手段によって、守る」

引用:防衛大学校安全保障学研究会著 (2006)『最新版安全保障学入門』亜紀書房 pp3

  • ある主体:
  • その主体にとってかけがえのない何らかの価値を:国にとっての自国の領土、国民の生命、財産の安全、政治的独立
  • 何らかの脅威から:外国の軍事的侵略
  • 何らかの手段によって:軍事力によって
  • 守る

となります。

一般的に使われている安全保障は、この伝統的安全保障を指します。

経済的安全保障

経済を維持するために、農業(食料)・工業・エネルギー(資源)の確保が重要であるという認識から、経済的安全保障の概念が生まれた。

これは、戦後の自由貿易により、各国の対外的な経済の依存度が高くなり、国家の脆弱性が増したためである。

総合安全保障

総合安全保障とは、「伝統的安全保障の軍事面に経済的安全保障の経済面を加え、さらに外交による交渉や国内の自然災害の脅威など様々なことを考慮して安全を確保する」ことである。

安全保障を抽象的に定義した文章に当てはめると、

「ある主体が、その主体にとってかけがえのない何らかの価値を、何らかの脅威から、何らかの手段によって、守る」

引用:防衛大学校安全保障学研究会著 (2006)『最新版安全保障学入門』亜紀書房 pp3

  • ある主体:国
  • その主体にとってかけがえのない何らかの価値を:国にとっての自国の領土、国民の生命、財産の安全、政治的独立、経済的発展
  • 何らかの脅威から:外国の攻撃、宗教集団、ゲリラ、災害、反政府団体
  • 何らかの手段によって:軍事、経済、外交、各国との協力
  • 守る

となります。

人間の安全保障

人間の安全保障とは、そのままの意味で「人間の安全を確保すること」である。

1990年代に人権思想の普及や、国を統治する能力がない破綻国家が発生したことにより、人間の安全保障の概念が生まれた。

人間の安全保障で最も重要なことは、ある主体が「国」ではなく「人」であることです。

いままで紹介した伝統的安全保障や総合安全保障は主体はあくまで「国」です。国が国民の生命を守ります。しかし、国家が破綻して国民を守れない場合は、そこに住んでいる人々はどうなってしまうのでしょうか。

ほかの国や非国家主体が手を差し伸ばさなければ、彼らは虐殺や飢餓に苦しむことになります。

安全保障を抽象的に定義した文章に当てはめると、

「ある主体が、その主体にとってかけがえのない何らかの価値を、何らかの脅威から、何らかの手段によって、守る」

引用:防衛大学校安全保障学研究会著 (2006)『最新版安全保障学入門』亜紀書房 pp3

  • ある主体:
  • その主体にとってかけがえのない何らかの価値を:1人1人が考える価値を
  • 何らかの脅威から:人権、虐殺、貧困、紛争、飢餓
  • 何らかの手段によって:国家、非国家主体、個人
  • 守る

となります。

集団的安全保障

集団的安全保障とは、「国際社会のため国際機構を設けて、国際機構に参加した国が相互協力をすることにより、安全を維持すること」です。

この構想はカントやアンリ4世により提唱され、具体化されたのは第一次世界大戦後に設立された国際連盟です。現在では、国際連合が集団的安全保障の構想の実現を目指しています。

安全保障を抽象的に定義した文章に当てはめると、

「ある主体が、その主体にとってかけがえのない何らかの価値を、何らかの脅威から、何らかの手段によって、守る」

引用:防衛大学校安全保障学研究会著 (2006)『最新版安全保障学入門』亜紀書房 pp3

  • ある主体:国際機構(参加国)
  • その主体にとってかけがえのない何らかの価値を:国際機構に参加国にとっての価値
  • 何らかの脅威から:外国の軍事的侵略
  • 何らかの手段によって:軍事力、経済制裁
  • 守る

となります。

集団的安全保障を詳しく説明したいのですが、それだけで記事が1つ書けてしまうので、機会がありました記事を書いてリンクを貼ります。

まとめ

簡潔に安全保障を説明
国が自国の領土、国民の生命、財産の安全、政治的独立を外国の侵略から守ること
学問的に観点から安全保障を説明

安全保障の定義は、定義をする人の価値観や時代の状況により異なるが、もっとも基本的な安全保障の概念はリアリズム学派の伝統的安全保障である。伝統的安全保障は「国が自国の領土、国民の生命、財産の安全、政治的独立を外国の軍事的侵略から軍事力で守ること」である。その後、戦後の自由貿易により経済を維持発展させることも重要であるいう認識から経済的安全保障の概念がうまれた。さらに「伝統的安全保障の軍事面に経済的安全保障の経済面を加え、さらに外交による交渉や国内の自然災害の脅威など様々なことを考慮して安全を確保する」総合安全保障の概念が生まれた。これ以外にも人間の安全保障、集団的安全保障など、安全保障は多様化している。

21世紀では、テロの脅威、災害の脅威、環境の脅威など脱国家主体による問題を国家が直面しているために、新しい安全保障の概念を定義することもできる。